幼馴染
あいつとあたしの関係はただそれだけ
それ以上でもそれ以下でもない
微妙な関係
大きく変わったであろう夏休み。その前と後では、あいつは見違えるほどに違っていた。あいつだけじゃない。織姫だって変わってる。きっとあたしの知らないどこかで何かがあったんだろう。どこかあたしだけ置いてかれるようで、怖かった。
「こんなとこで何やってんだよ」
急に呼びかけられる声。振り向くとそこには一護が立っていた。
「何って……ちょっと考え事してただけ」
河川敷に一人で座り込んでいたあたし。何でこんなとこに一護がいるのか分からず、あたしは少し戸惑いを隠せない。
「お前が考え事?珍しいこともあるもんだな」
「うっさい。それより何で一護がここにいるんだよ。普段こんなとこ通らないだろ」
「……別に何でだっていいだろ」
どこか少し照れているように感じるのはあたしの気のせいだろうか。ますます分からなくなり、知らずと眉間にしわを寄せていた。
しばらくすると一護は遠慮もなく、あたしの隣へ座る。あたしは平気でそれを受け入れていた。近づきすぎず、遠すぎず、その微妙な距離はまるで今のあたしたちの関係を表しているようだ。
「たつき……お前さ、何か悩んでることでもあるのか?」
「……は?」
いきなり一護にそんなことを言われ、あたしは目が丸くなる。自分でも呆然とした声だと自覚しながらも、聞き返せずにはいられなかった。
「いや、だからさ……最近元気ないんじゃないかって……」
少し歯切れの悪い言い方をする一護が、あたしは新鮮で面白くてたまらなかった。堪えようと思ったけれど、それは出来ずに笑いが溢れる。
「アハッ……アハハハッ!」
「な!何笑ってんだよ!?」
「だって……あんたがそんなこと言うなんて……!アハハハッ……!」
腹を抱えて笑う私の笑い声は、絶対近所に響きまくっていたと思う。こんな笑ったのもすごい久しぶりだった。
一護はなんだか怒っているようで、何も言わずにムスッとしていた。
「……んな笑うんじゃねぇよ」
「ごめんって」
こういう時の拗ねてる一護は正直ちょっとだけ可愛いと思う。口にしたら絶対怒るから言わないけどね。
「で、何悩んでるんだよ」
「……別に何も悩んでないよ」
「嘘付け。井上だってお前のこと心配してたぞ」
「井上、ね……」
織姫があたしのことを心配してくれるのは嬉しい。だけど今はそれ以上に一護からその言葉が出たのがすごい怖かった。
「何だよ……」
あたしの含みのある言い方に気がついたのか、不思議そうに一護はあたしを見る。
「あんたさ、いつから織姫とそんな仲良くなったの?織姫だけじゃない。石田も茶度も……はもともとだけど……だけど、あんたたち4人って何か夏休み終わってから妙に仲いいよね」
茶度と一護がもともと友達なのは知っているけど、少なくとも夏休みの前は織姫とも石田ともそこまで仲良くなかったはず。正確に言うと一学期の途中あたりから、二人は急に親しくなったようだった。あたしはそれが嬉しかったけど、でもやっぱり不思議だった。
「それは……」
一護はそれしか言えず、何を言うべきか悩んでいるようだ。それを見てあたしはやっぱり、と思った。
「あぁ、別に無理して言わなくていいよ。あたしもあんたたちが仲良くなってくれると嬉しいし」
「そ、そうか?」
きっとこいつは織姫の気持ちになんて気づいてないだろうけどね。
「それよりさ、夏休み楽しかった?」
「あ?……それなりにな。いろいろ初めて体験することが多かったよ」
その時、あたしは胸がすごく痛んだ。一護は空を見上げ、何かに想いを馳せるような、そして大人びた顔をしていた。きっと、何か大事なことがあったんだろう。そしてそれは織姫も、石田も茶度も関わっていて、あたしだけ仲間はずれにされたようだった。
「そっか……」
「お前は?」
「あたし?あたしは別に普通だよ。いつものように学校で空手の稽古ばっか。織姫もいなくて、あんまし遊ぶこともなかったな。ま、そのおかげでかなり上達したけどね。今なら片手だけでもあのゴリラみたいな女に勝てるよ」
「……ほ、ほどほどにしておけよ……」
ちょっと冗談を含めて言ったけど、一護は少し引いていた。そんな態度取られたらさすがに少し傷つく。あたしも一応女なんだし。
一護との間にそんなことは関係ないけど。
「はぁ……」
ため息を吐いてあたしは少し寝転んだ。一護はそんなあたしを不思議そうに見る。
「どうしたんだよ」
「何かさ……あんたも織姫も成長してるんだなぁって……」
「はぁ?」
「それに比べてあたしは全然変わらない……。何か一人だけ取り残されてる気分……」
「たつき……」
結局あたしは口にしてしまった。自分が悩んでること。不安を。
だけど一護はそれを笑って一蹴してくれた。
「何言ってんだよ。お前だって成長してるじゃんか」
「どこが?」
「空手とか?インターハイ2位なんだろ。ホンット恐ろしい女だな」
「一護!もっかい言ってみな!」
あたしは立ち上がり、一護の首を絞めて脅していた。必死にギブなどと叫んでるのを無視し、そのまま一護の首を離さない。
くだらない。今のあたしは十分笑っていた。一護も笑って、あたしの攻撃をわざと受けていてくれてる。何だか自分一人悩んでいるのが馬鹿みたいだ。
「ったく……今度変なこと言ったらただじゃおかないからな!」
「わ、悪い」
「……でも、ありがと」
「……あぁ。お前はそうやって笑ってたほうが可愛いよ」
「なっ!?」
いきなりの言葉にあたしは驚いた。心臓が飛び出てしまうかのように、ドクドクしている。だけどそんなあたしを嘲笑うかのように、一護は悪戯な笑みを浮かべていた。
「……なんてな。そんなわけないだろ。お前には可愛いなんて言葉絶対似あわねぇよ」
「い……一護―――!!」
今度こそあたしも本気で怒りだした。その怒りを察したのか、一護も慌てた顔をしてあたしから逃げるように走り出す。そんな一護を逃がさないように、あたしは全力疾走してあいつを捕まえた。そしてさっきのように、今度は手加減なしにあいつの首を絞める。
「ちょ!ギブッ!ギブギブッ!!」
「誰が許すかぁ!」
苦しそうな顔で訴える一護とは反対に、あたしはそれでも満面の笑みを浮かべていた。あたしとこいつの関係に、そんな言葉なんていらない。
幼馴染なんてそんなもんだよな。
だけど、本当言うとちょっとだけ嬉しかった
柄にもなく照れて
幼馴染
それだけの関係
いつまでも変わってほしくないけど、その関係に少しだけ変化を求めているのかもしれない