何でそうやって俺を拒むんだよ
俺はただ、お前と友達になりたいだけなのに……
大切な贈り物
「リオン!」
スタンはいつもの様に大声でリオンの名を呼んだ。そうすればリオンは振り向いてくれるのだと、最近やっと気づいたから。
「うるさい!街中で大声を出すなと何度言ったら分かるんだ!」
「だってこうでもしなきゃ、リオンは振り向いてくれないじゃないか」
「何で僕がお前に呼ばれて振り向かなきゃならないんだ」
「何でって……」
相変わらず少しも打ち解けようとしないリオンを見てスタンは悲しくなる。しかし何度冷たい態度を取られようと、それでもスタンは諦めなかった。
「それじゃぁ何でリオンは俺のこと無視するんだよ。俺、何か悪いことしたか?言ってくれなきゃ分かんないよ……」
「だったら僕に話しかけるな。僕はお前と仲良くなる気なんかない」
それだけ言うと、リオンは用もないとばかりにスタンの前から去ろうとする。だがスタンは瞬時にリオンの腕を掴んでそれを止めた。
「待てよ!リオンになくたって、俺はお前と友達になりたいんだ」
「僕にはそんな気ないと言ってるだろう」
「リオン……」
「分かったらこの手を離せ」
「嫌だ」
「おい!」
無理矢理リオンはスタンから離れようとするが、逆にスタンは離すまいとその手に更に力をこめた。するとリオンは余りの痛さに思わず顔を顰める。
「……ッ!」
「あ、悪い!」
その顔を見て、スタンは我に返って慌てて手を離した。
「この馬鹿力が」
「わ、悪かったよ……。大丈夫か?」
「別に……」
しかしよく見ると、その腕には少しだけ痣が浮かびあがっていた。
「ごめん……」
「大丈夫だと言ってるだろ。こんなの明日になったら消えてる」
「それはそうかもしれないけど……あ、そうだ!」
何かを思い出したようにスタンは顔を上げてリオンを見る。
「お詫びってわけじゃないけど……何か好きなもの買ってやるよ!実はさっき綺麗なアクセサリーがある店を見つけてさ。それをリオンに知らせてやりたかったんだ」
「何を言ってる……。僕は子供じゃない!」
「いいからいいから!ほら、あっちにあるんだ!」
「お、おい!人の話を聞いてるのか!」
すぐに行動に移せるこの行動力はたいしたものだ。そのことに感心しながらも、リオンはスタンにまたもや無理矢理手を引っ張られる。それに必死にもがきながらも、力では敵わず結局なすがままにスタンに従う他なかった。
「どれがいいかなぁ……。お!これ綺麗じゃないか?でもこっちもいいよなぁ……」
街中でアクセサリーを並べている露店の前で、スタンは必死にアクセサリーを見比べていた。その一歩後ろではリオンが不機嫌な顔をして立っている。
「リオンはどれがいい?俺はこれなんかいいんじゃないかなって思うんだけど……」
「お、兄ちゃんセンスいいね。このブレスレットは特注の品だぜ。どうだい?今なら安くしてやるよ」
「ホントですか!?」
店の主がスタンを褒めると、スタンはそれだけで調子に乗って乗り気になってしまう。その様子にリオンは後ろで思いっきりため息を吐いていた。
「そんな見栄見栄の世辞に乗るな、この馬鹿が!」
「なっ!そんな馬鹿って言うなよ!そりゃ当たってるけどさ……」
それでもそんなに連呼されれば、さすがのスタンも少しは堪える。そんな二人の様子を見て、店の主は豪快に笑いだした。
「ハハッ!兄ちゃんたち面白いな。特別にこの品これくらいにしてやるぜ?」
店の主は指を数本立て金額を表した。しかしスタンはその額に驚いて、大きな声を上げる。
「そんなにするのか!?」
「おいおい……これでもかなりまけてるんだぜ。本来なら倍近い値段だ」
「知らなかった……。俺、そんな金持ってないよ……」
「お前はどこの田舎者だ。明らかにこれは高価な品だろう。そんなことも分からないのか?本当にお前は……」
余りにも田舎丸出しなスタンに、リオンは呆れ果てる。落ち込むスタンは、自分の財布の中からお金を確認していた。その中身をリオンは目に入れてしまったが、その少なさにはある意味驚いてしまう。
「おいおい、兄ちゃん。そんだけしか持ってないのか?それじゃ売れ残りのガラクタしか買えないぜ」
「そんな……」
店の主もスタンの財布の中身を見て同じように驚いていた。故郷のリーネでなら何とかなったかもしれないが、都会ではそうもいかなかったようだ。現実に打ちのめされ、スタンは少しだけ後悔していた。買ってやると言ったのに、これでは何も買えやしない。
「ごめん……。これじゃ何も買えないよな……」
「……」
「怒ってるか……?」
何も言葉を発しないリオンが恐ろしく、スタンは恐る恐るリオンを見る。しかしリオンはある一点をジッと見ていた。
「それ……」
「え?」
「そのピアス」
「これか……?」
リオンが指したものは、少し古びたようなピアスだった。おもちゃというわけではないが、安くほとんどガラクタのようなものだ。少なくとも客員剣士の身分でもあるリオンがつけるようなものではない。
「……あぁ。これくらいのガラクタなら、さすがにお前でも買えるだろ」
「多分買えると思うけど……だけど本当にいいのか?」
「何がだ」
「いや……その……リオンって高価なものしかつけないんじゃないかと思って……」
「当たり前だ。僕がこんなガラクタを身につけるはずないだろ」
言いにくそうにするスタンだが、リオンは当然とばかりに言い張った。今着ているものだって高価なもので、普通の市民では到底買えるものではない。
「じゃぁ何で……」
「うるさい奴だな。僕がこれでいいと言ってるんだ。どうせお前にはこれくらいのものしか買えないだろ」
「ぅ……」
図星なだけに、スタンは何も言い返せない。だがリオンがこれでいいと言うならいいのだろう。少ない金しか持っていなかったが、リオンに何か買ってあげれるなら嬉しいものだから。例えガラクタだろうと、身につけてもらわなかろうと、リオンが望んだことに違いはなかった。
「分かった……。おじさん、これ買うよ」
「そうか。ありがとな!少しまけとくぜ!」
「ありがと、おじさん!」
スタンは金を払って、そのピアスを受け取った。近くで見ると、少し汚れも目立っている。拭き取ろうとしても簡単には落ちなかった。仕方なくスタンはそのままそれをリオンへと手渡す。
「これでいいんだよな、リオン」
「あぁ……」
「よし!それじゃ宿に戻ろう!」
リオンが受け取ってくれたことにスタンもそれだけで嬉しくなり、陽気な足取りで宿へ歩き出していく。リオンは受け取ったピアスを見つめ、そしてスタンの背を見て小さな声でつぶやいた。
「ありがとう……」
スタンには聞こえることはなかったが、リオンもそれでいいと思った。むしろ聞こえる距離なら口にはしないだろう。
そしてピアスを握りしめ、リオンは知らずその顔になぜだか笑みがこぼれる。
ピアスは小さく簡素なものであったが、更にそのピアスに小さな宝石みたいなのが埋め込まれていた。
それは小さすぎて、汚れによって隠れてしまっているけど
確かに、確かに
輝くような黄金の色だった
まるで
前を歩く男の、太陽に照らされている長い髪の色と同じように