あれから五年。未だに一日も君のことを忘れたりなんてしていない
今君は何をしている?
無事でいるのだろうか
それだけが気がかりだった
離れていても、君を想う
久しぶりの日本だ。この地も五年ぶりか。
空港に足を下ろした一人の青年は、久しぶりの日本に懐かしさを覚える。しかし観光なんてものもしていられず、急いで今回の目的地でもある月詠学院へと急いだ。
「みんな元気にしているかな……」
連絡は取り合っていたが、実際に会うのは久しぶりだ。ずっと一緒だったペンタファングのみんなや、五年前の事件をきっかけに共に戦いあった当時の天照館の執行部、そして――彼。
本当は一緒にいたかった。けれど飛河は一緒に行かない選択をしたのだ。彼もそう望んでいたから。
鬼王の一柱でもある大嶽丸が創り上げた結界は、非常に高度なものだった。しかし当初の予定よりも解析は大幅に遅れてしまったが、それでも飛河は何とかそれを解除させることに成功し、更には同じようなものを創り上げて大嶽丸を逆に閉じ込めた。
それにより、現在の月詠退魔班は大嶽丸と最後の戦いを始めることになる。そしてそれをサポートするべく、旧月詠退魔班ペンタファング、そして東京までやってきた旧天照館執行部の仲間たちは雑魚の天魔を排除することになった。飛河にとっては久しぶりの戦いでもある。しかしその戦闘の勘は全く衰えてはいなかった。
「さすやな、ナギ!」
「晃か」
「当ったり前でしょ!あんたとは違うんだよ、アホ御神!」
「伊織……お前……」
「何も言いっこなしよ」
遺伝子操作により何らかの被害があったペンタファングたち。その忌まわしい過去に、誰もが嫌な思いを抱いていた。飛河だってそうだ。だけどそれも五年前をきっかけに失われつつある。
感情を失った飛河だったけれど、その感情というものを再び教えてくれた人がいるから。
「ナギ!大丈夫か!?」
「タカ……あんたあいつらと一緒にいったんじゃ」
「あいつらは俺がいなくてももう大丈夫だ。ここまでいくつもの死線を潜り抜けてきたんだからな」
「……そうやな」
「ならば、久しぶりにペンタファングが全員揃うことになるな」
「凛……」
続いてやってきた、京羅樹と凛。久しぶりに会った仲間たちに出会えて、飛河は気づかぬうちに笑顔を見せた。
「お!今日は珍しいもんをよく見るな!」
「そうだな……」
「ナギが笑う姿が見れるとは思わなかったな」
「笑って、いたか……?」
感情が戻りつつあっても、自分ではまだあまり自覚していない。こうやって人に指摘されて、初めて自分が変わってきていることに気づくのだ。それはとても嬉しい変化だった。
「鏡見てみなさいよ」
「そうやな。けど、そんな暇はなさそうやで……」
「ったく!相変わらず雑魚は多いねぇ」
五人を狙うように、下級や上級の天魔が大勢現れていた。取り囲むようにたくさんいるが、五人そろったペンタファングにとってもはや敵ではない。久しぶりの戦いに少しだけ高揚しながら、飛河の言葉を合図にみんなが動き出した。
「行くぞ!」
現在の月詠退魔班が帰ってきた。どうやら無事に大嶽丸を倒したようだ。しかし帰ってきた者たちに笑顔は誰一人なかった。それは仲間の一人が魂神を発動させて命を懸けて最後まで異空間に踏み止まっていたからのようだ。みんながそれを悲しむ中、突然辺り一帯を照らす光が覆いつくされた。そしてその後に、その仲間が眠るように倒れていた。みんなが心配で駆け寄る中、飛河は一人嬉しさで胸が込み上げてきた。
先ほどの光、そして倒れている草凪八雲の身体から微かに感じ取られる彼の験力。本当に微かであるけれど、飛河は決してそれを見逃しはしなかった。
草凪八雲の無事を確認すると、飛河は一人みんなに背を向けて歩き出す。その足取りはゆっくりではあったが、確実に急いでいる。意識すれば更に強まるその験力は、飛河を誘うように一つの場所に感じ取られた。
それはすでに無人の旧校舎の中。そして、そこに飛河を待つように彼はいた。見慣れぬ鎮守人の衣装をその身に纏って。
「日本に来てたんだね……」
「飛鳥……」
微笑む彼――伊波飛鳥を目にした途端、飛河は駆けつけて伊波を抱きしめた。そんな行動に伊波は苦笑しながらも、同じように嬉しさと共に抱きしめ返す。
「久しぶり、薙」
「ずっと会いたかった……」
「うん。僕も会いたかった」
五年という長い年月を埋めるかのように、二人はいつまでもその存在を感じあっていた。けれどいつまでもそうしているわけにもいかず、名残惜しみながらも伊波は身体を離す。
「元気にしてた?」
「あぁ。飛鳥の方こそ」
「僕は大丈夫だよ」
「飛鳥の大丈夫は信用できない」
「何それ、ひどいなぁ」
二人は笑いながらお互いを心配していた。話したいことは山ほどあるけれど、すぐに別れが来ることを二人とも分かっていた。
「……本当は会うつもりはなかった」
「飛鳥……」
「薙がここにいるって知って凄い嬉しかったんだ。だけど、それと同時に凄い怖かった……。薙に会ったら、僕の決意が崩れそうで……薙にすがりたくなりそうで……。だから会わないで去ろうと思ってたのに……」
「だけど飛鳥はここで僕を待っていてくれた」
「だって、薙の感覚が真っ直ぐに近づいて来るんだよ。そんなの分かったら、去れるわけないじゃないか……」
「ありがとう、飛鳥。それだけで嬉しい」
なかなか見ることの出来ない最上級の笑顔をする飛河に、伊波は何も言えない。この笑顔を見るたびに、やっぱり自分は彼が好きなのだと実感できた。本当はこの後すぐに人と待ち合わせているのだけれど、それもすっぽかしそうだ。
「薙……」
「まだ、終わらないのか」
「うん……」
「一緒に着いていきたいって言ったら?」
「ダメだよ……」
「……そう言うと思った」
伊波は飛河が戦うことをよく思わない。だからこそ、飛河に協力をしてもらいたくはないのだ。最終的なものはどうあれ、そこへ行く過程は戦いが多い。
「だけど、もうずっと会えないなんて嫌だ」
「僕だって本当は嫌だよ……」
「なら、たまには連絡してくれたっていいじゃないか」
「薙……そう、だね」
本当に目の前の男には敵わない。自分から敢えて連絡を絶ったというのに、その決意さえもすでに崩れていた。
「……もう行かなきゃ」
「飛鳥……」
「これ以上いたら本当に離れられなくなっちゃうから……」
「分かった……」
二人とも本当は別れたくなんてなかったが、いつまでもこうしているわけにもいかなかった。名残惜しみながらも、別れの言葉を告げる。
「元気でね。身体壊さないでよ」
「それは僕のセリフだな。無茶はしないでくれ……」
「分かってるよ。……それじゃ」
「あぁ……。またな、飛鳥」
その言葉に伊波は驚きながら、嬉しくなった。
さよならだと思っていた。次に会うことは何年も先なのだと。だけど、飛河はまたと言ってくれた。それだけで伊波は嬉しくなる。
そして飛びっきりの笑顔をもって、飛河に笑った。
「うん!まただよ、薙!今度は連絡もするし、電話もする!それにアメリカまで会いにだって行くから!!」